-Tuba Eccentric-
はじめに四分音

前書き

はじめに

本稿は筆者が実際の現代曲中においてしばしば現れる特殊奏法を習得していく際の覚書(の様なもの)です。項目によっては実際に曲中においての実例がほとんど無くて実践的でない場合もあるし、逆に既に広く使われていて特殊奏法と呼ぶか否か於いてはいささか疑問を呈するものもあるかもしれません(よって特殊奏法というよりも寧ろ拡張奏法、と言った呼び方が正しいのかもしれないけれど、ここでは慣例に従って特殊奏法という呼び方で話を進めていきます)。
ここでは主に

  1. その奏法が一体どういったメカニズムによって生じるのか
  2. そのメカニズムをどういった方法で習得し、実際の演奏に活かしていくのか

という2点に焦点が当ててアップしていきたいと思います。また、前述したようにこの項は筆者自身の習得のための覚書でもあるので、以後大幅に加筆、修正されることが有りうる事をご了承ください。

「特殊奏法」の定義

 まず、金管楽器における通常の発音システムは大まかに言って以下の四段階に分けられます。

  1. 管体に対して息を吹き込み、
  2. その息が喉、口腔を通過し、
  3. 唇をある一定の振動数で震わせ、
  4. ピストン、ヴァルヴによって管長がその振動に合わせた長さに整えられ、
  5. 任意の音が発音される。

この各段階に変化を付け加えることで特殊奏法が得られます。例えば2.の段階で母音を連続的に変化させることでディジェリドゥのような効果を出すことが出来ますし、循環呼吸も2.の時点での変化ということが出来ます。逆に3.4.の段階をカットすることによってブレス音を作ることにもなりますし、その前段階の2.の時点に変化を加えることでブレス音に変化を与えることが出来ます。つまりほとんどの特殊奏法はこのそれぞれの段階に変化を付け加えて一種のフィルターを通した形にするか、若しくはそのいくつかの段階をカットすることによって得られます。以下に代表的なテクニックがどの段階での変化なのか、簡単な表を示します。

テクニック 変化の及ぶ場所
アンスピレ(吸音) 1 (肺)
フラッター 2 (口腔若しくは喉)
循環呼吸 2 (頬)+鼻
母音変化 2 (口腔)
重音(楽器+声) 2 (喉)
2 (喉) 3,4 カット
タングラム 2 (口腔)
重音(楽器のみ=マルチフォニック) 3 (唇)
スラップ 3 (唇)。1はカット
四分音(微分音程) 4 (フィンガリング)、3 (唇)
ハーフ・ヴァルヴ 4 (フィンガリング)
ブレス 2,3,4 カット

 付け加えるならば、この表に従って各テクニック同士の複合テクニックが可能か不可能かということをある程度推し量ることが出来ます。例えば重音(楽器+声)というフィルターを通した後でさらにハーフヴァルヴで変化を付け加えることが出来るかどうか、といったことはこの表から簡単に推察することが出来るかと思います。また逆に循環呼吸をしながら重音(楽器+声)をハーフヴァルヴの微分音で、といったことは原理的に可能だとしてもそこに使われているフィルターの多さから使用できる可能性がかなり狭いことが推察できるかと思います。
 もちろん、実際の演奏においては1から4の動作はお互いに密接にかかわっているため、それらを全て切り離して考えることはある種の危険を伴いますが、原理として理解するのには役立つかと思います。

音楽のための特殊奏法

 前項で楽器を吹く段階を大まかに4段階に分けましたが、一番大事なのは言うまでもなくそれらの前段階である「頭=イマジネーション」です。作曲家がどのような文脈でその奏法を指定したのか、どういった音響を想像したのか、自分はどのようにその音楽を再現したいのか、そういった行程を経ない特殊奏法はまさに「特殊奏法のための特殊奏法」になってしまう危険性を秘めていると思います。本稿が奏法の習得を容易くし、また創造的な演奏に対してのヒントになれば幸いです。

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更新日時: 2006年10月25日 20時55分
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